2000年9月2日 / 「起業家のマーケッティング(続々々)」
“クリアベール” という名の新しい発想の空気清浄機を200万台以上――まだ破られていない世界記録のようですが、大企業がひしめく世界で、貧乏起業家の私が、こういうことを実現できたのは(後で考えれば)5つのドラマ(前回のこの欄で述べました)が生まれて、“神話”に昇華したからのような気がします。ブランドは無く、利権も持たず、値下げもしない―――それでも200万台以上―――たしかに“神話”が必要だったようです。
大企業の研究開発のリーダーから、起業家に転じたのは、息子の喘息がきっかけでした。 喘息は四日市か川崎だけの話と(不勉強でした)思っていたものですから、思い切り空気のきれいな逗子の海辺で何故?‥‥と、驚きました。5回の流産のあとでやっと授かった子でしたのから大事に大事に育てていたので、余計にびっくりしました。 調べてみて、もっと驚きました。北海道から沖縄まで、全国あまねく、30万人もの子が、喘息で苦しんでいたのです。喘息をも含めたアレルギーの子供は25%‥‥‥これにはヒッタマゲテしまいました。 25%の原因を誰も(医者も科学者も)ご存知ないので、自分で調べてみました。 調べてみて、また驚きました。 家の中はダニ・カビだらけ、化学物質だらけ、飲食物も化学物質だらけ―――今日ではだれでもご存知のことですが、1983年には、誰も知らなかったのです!―――本当に驚きました。 プラズマもレーザーも新しいエンジンも‥‥‥どうでもよくなって、「子供が健康に暮らせる環境づくり」をどうしてもやらずにはいられない気持ちになりました。 日本の経済が絶好調の頃のですから、環境とか、子供の健康といったテーマは、大企業では困難でした(今日では考えにくいでしょうが‥‥‥)。 起業家に転ずるしかなかったのです。 子供が3才と1才と妊娠3ヶ月‥‥‥という時に、会社一恵まれた立場から収入0の起業家に転じたのですから、よっぽど興奮したのでしょう。
起業家に転じて最初に手がけたのが“クリアベール”でした。 喘息の子供たちをなんとかしてあげたかったからです。 医者ではないので喘息を治すことはできませんが(実は医者でもできないのですが)、喘息の発作が起こりにくくすることなら(物理学者の私でも)できるかもしれないと思ったのです。 発作の原因を研究しました。 喘息の発作はたいてい真夜中に起きること、空気中に漂っている生物系の微細な埃(ダニの毛とか、カビの胞子とか)が発作の引きがねになりやすいこと、空気が酸性(プラスイオン)に偏っていると不都合なこと‥‥‥いろんなことが解りました。 そこで、空気中の微細な埃を確実に取り、真夜中でも使えて(つまり音がまったくしないで)、空気を弱アルカリ性(マイナスイオン)にコントロールできる空気清浄機を発明しました。 息子を実験台にしてみると、調子が良さそうです。 自然界に存在する空気の範囲内にチューニングしましたから、害になる惧れもなさそうです。 喘息のお子さんを探しては、使ってみていただくことを重ねました。
喘息の発作がほとんど治まった子供が、75%くらいでした。 200人くらいに使っていただいての数字です。 私の期待を遥かに上回る結果でした。 この結果に自信を得て、もっとたくさんの子供たちに使ってもらうようにしました。 喘息の子供をお持ちのお母さんから泣いてお礼を言われて、私も貰い泣き‥‥‥という青春ドラマみたいな毎日でした。 そのうち、お母さん同士のクチコミで評判が拡がり、病院のお医者さんまでが(頼んだわけでもないのに)患者さんに勧める‥‥‥こんなことが実際に起こったのです。
儲からなくてもいいから販売したい‥‥‥という方が、次々に現れました。 泣いて喜ばれるようなことを経験して、(本当に儲からなかったのですが)多くの人たちが真剣に、(それこそ歯を食いしばって)粘り強く販売活動を続けてくださいました。 これが、“200万台”の出発点です。
意図してではなく、結果として5つのドラマと1つの神話が生まれ、その結果が200万台でした。後になって考えると、ちゃんと正道を歩んでいるのですね。(こんなことを言うと笑われそうですが)発明家に一仕事させようと、神様が(どこの神様か知らないけど)息子を喘息に仕向けてくれたような気がしています。 息子の喘息は大事に至らずに全快しました。今はアメリカの大学で、父親(私のこと)と同じ分野の勉強をしています。 一生懸命勉強して、いい科学者になってくれることを願っています(ありゃっ、マーケティングの話から外れたぞ!)。