2000年8月26日 / 「起業家のマーケッティング(続々)」

 「新しいモノを、新しいヒトが、新しいヒトに売る」‥‥売れる筈がありませんね――これが基準軸。 「モノが良ければ売れる筈」と誰もが――特に技術系の方は――言います。 「古いモノ(市場が出来上がっているモノ)を、古いヒト(業界で営業力を持っているヒト)が、古いヒト(顧客)に売る」世界では(若しかしたら)そうかもしれませんが、「新しいモノを‥‥‥」の世界では違います。 「良いモノ」程度では売れる筈が有りません。「スグレモノ」でも売れません。「ギュテンモノ」でさえも売れません。 ですから、売れたら奇跡――この“奇跡”を起こすのが「起業家のマーケッティング」と定義してはどうでしょうか。 本に書いてある(大企業のための)マーケッティング―――例えばマーケットリサーチ(マーケットなど無い!)、例えば競争優位戦略(競争相手なんていやしない!)、例えば広告戦略(広告する金など有るか!)―――とは異質です。

 「新しいモノを‥‥」のマーケッティングでは、“5つのドラマ”が必要―――これが私の秘伝です(アッ、喋ってしまったので秘伝ではなくなった!)。 平凡なことですが、「新しいモノを‥‥」を30年もやってきて、到達したのはこんな処です。

 5つのドラマの第1は、「新しいモノ」が“ドラマチックな効果”を生むこと。 披露する時の演出も思い切ってドラマチックに。 観客(じゃなかった、お客)の全員から「オーッ!」と声が上がれば合格。 モノの凄さと演出の凄さが合体すると、「オーッ!」が実現できそうです。 全国の起業家の方と数多くお付き合いして、「ドラマチックでなくて勿体無い‥‥」という印象を持っています。「もっとドラマチックに‥‥」という私のアドバイスは、「そんな品の悪い‥‥、手品師じゃあるまいし‥‥」という感情ではじき返されます。 手品は「ビックリしたい」という好意で見てもらえますが、起業家や発明家の“新しいモノ”は、「ケチをつけてやろう‥‥」という悪意で(ともすると)見られます。 手品以上にドラマチックにして、(悪意も忘れさせて)好意を生み出す必要が有ると思うのですが、起業家のみなさん、如何でしょう(エジソンは、発明家である以上に演出家でしたが、エジソンを手品師と言う人はいません)。

 第2のドラマは、創った人と使った人の間の「人間的ドラマ」――創った人の思いが素直に伝わって、使う人との間に共感が生まれることです。 欠点が有ったら(新しいモノは欠点だらけ)一緒に直すことです。 共感を持った2人の共同作業がドラマを生み出します。100人に使っていただいて、95人は「偉い!、欲しい!」と叫んでくれる――ここまでは地べたを這ってでも辿り着くことです。 

 第3のドラマは使った人に生じたドラマ――「毛生え薬を使ったらハゲが治った」、「やせ薬を飲んだらデブでなくなった」‥‥というアレです。ハゲやデブでもドラマですが、この種のドラマは、ヒーロー・ヒロインが自慢したがらない上に、ハゲ・デブでない人にはつまらない。 ヒーロー・ヒロインが自慢したがるし、周りの人も感動する‥‥‥こういう一流ドラマの方がいいですね。

 第4のドラマは、売った人と買った人のドラマです(やっと、売る人に辿り着いた!)。 買ってもらった人に泣いて喜ばれて、(売った人の)人生観が変わった‥‥‥なんてのがイイですね。 こういう4つのドラマの後に、「生み出した人のドラマ」――汗と涙の物語――この5番目のドラマは、1番初めに発生しているのでしょうが、これを1番目にもってくると、「クサイ話」と誤解されそうです。

 ここまでの5つのドラマは、全部揃わなくてもいいのですが、全部揃うと“ドラマ”が“神話”に昇格するかもしれません。 (ドラマは人間の世界の話ですが)神話は神の世界の話ですから、人間が作ったブランドやコマーシャルやディスカウント(どれも大企業の得意技)よりも強くなくては困ります。 

 このようにして、多くの人が「売りたくてたまらない!」「買いたくてたまらない!」状態が生まれ、結果として「売ってよかった!」「買ってよかった!」‥‥この噂が伝播していく(伝播していくのは“エネルギー”)。この“エネルギー”に依拠して販売態勢を整えていく(大企業流では、販売態勢を作ってエネルギーを生み出し、このエネルギーで消費者を支配する)―――これが、「起業家のマーケッティング」の真髄(と私が勝手に考えたこと)です。(前々回登場の)起業家Kさん、お分りになっていただけたでしょうか?