2000年7月8日 / 「アウトソーシングの決め手」

 起業して、アウトソーシングの理論を組み立てる際に、“コンセプチュアル・スキル”と“テクニカル・スキル”を使い分けることを覚えていて役に立った‥‥と、前回お話しました。 もう少し、その話を続けます。 当時は、アウトソーシングという言葉すら存在しない頃で――たった16年前ですが、全て自社でやるのが常識でした――お手本にする会社も参考書も皆無でしたから、自分で理論を組み立てなければ仕方が無かったのです(かえって、面白かったけど)。

 アウトソーシングは、今日では誰でも知っているポピュラーな言葉になり、参考書もたくさん出版されています。参考書は(何故か)「大企業用の、アウトソーシングの考え方」を解説しています(ベンチャー企業向けと謳ってあるものも含めて‥‥、ン?)。 この解説を参考にして、戸惑っている起業家が少なからずいらっしゃるようですので、“起業家向け”のアウトソーシングの話をヒトクサリ(余計に戸惑うかな?)。

 チャレンジとスピードが身上の起業家が要請されるのは、時代の変換点でのいつもの話です。経営資源や経験をもたない起業家が、何でも自分でやっていたのでは、スピードを発揮するどころか、後戻りしてしまいますから、不得意なことは得意な企業に任せて、自らは得意に徹する‥‥‥これは、アウトソーシングという言葉が生まれる以前から当たり前の話でした。一方、大企業も一般の中小企業も、何でも自前でやる‥‥これも当たり前のことでした。ですから「アウトソーシング」という言葉は(アメリカでも)不要でした(だから言葉が存在しませんでした)。

 1980年代前半、不景気のどん底から立ち上がろうと必死のアメリカでは、大企業は「生産の海外移転とリストラ」にまい進して利益率を高め、これにより株価は上昇し、株式市場は活況を呈しました。一方、大企業がリストラや海外移転で減らした分を補って余りある雇用を、スモールビジネスと呼ばれる企業群が生み出しました――よく知られているアメリカ復活物語です。この頃、“アウトソーシング”という言葉が生み出されました。稼働率の低い仕事や生産性の低い業務を外部委託して、その部門を無くすことが、リストラの主流となり、そういう“外部委託”という(大企業にとっては)新しいスタイルを表す言葉が必要になったというわけです。その外部委託を“受託”する新興企業群――アウトソーサーと呼ばれました――が多数出現し、成長してゆきました。 日本にアウトソーシングという言葉が輸入されてポピュラーになったのは、1990年代中頃――やはり大企業のリストラに付随したものでした。 “アウトソーシング”の概念や手法が、大企業向けなのは、だから当然ですよね。この概念や手法を、起業家が参考にすれば、戸惑うのも、これまた当然でしょう。

  不得意なことは得意な企業に任せて、自らは得意に徹する‥‥経営資源は無いけど、スピードが身上の起業家にとって、アウトソーシングは当たり前すぎることなのですが、ポイントがいくつか有りそうです。一番大事なポイントが、「コンセプチュアル・スキルは自前でやり、テクニカル・スキルを外部委託する」‥‥ということのように思います。コンセプチュアル・スキルの部分まで外部委託したのでは、ただの丸投げになってしまって、いい“カモ”にされてしまいますし、企業のアキレス腱になってしまいます。

 例えば,カタログ製作の外部委託――誰でもやっている外部委託です。この場合のコンセプチュアル・スキルは「どのような場面で、誰にどのような価値(あるいは変化)を生じさせ、それに幾らのコストと時間を見込むか? 価値をどう評価するか? 委託して実現できないときのペナルティーは?」という部分まで。これが、極めて具体的になっていないと上手くありません。そこから先の部分「その価値(変化)を、決められた時間とコストの中で、どういう手段で実現するか?」‥‥がテクニカル・スキルです。一般には、この境目が曖昧です。大体の予算と、カタログの体裁(A4サイズ・4ページ、フルカラー‥‥とか)と、内容と納期が先に決められていて、一番安い見積もりを出したところか、馴染みの広告代理店に「なるべく体裁の良いのを‥‥」といった感じで委託します。そのカタログがもたらす価値の評価方法もペナルティーも曖昧ですから、広告代理店にとっては“いいカモ”です。つまり、コンセプチュアル・スキルを外部が、テクニカル・スキルの一部を自社がやっていることになります。ちょっと、まずいですね。

 生産の外部委託、販売の外部委託、経理の外部委託、品質管理の外部委託‥‥要点は、カタログの例と同じです。その仕事がもたらす価値の定義を具体的にする必要があります。その価値とコストが、経営戦略と調和していなければ上手くありません。価値の評価方法とペナルティーが定まっていなければ、外部委託は危険です。昔、ライバルの大企業に部品製作を委託したことがありました。誰でも知っている有名企業でしたが、品質管理基準は私たちの基準に100%従ってもらいました。アウトソーシングの醍醐味を感じた記憶があります。