2000年7月1日 / 「ヒューマン・スキルを磨く」

 「人を動かす魔法の話」を2回続けました。「人を動かす話」は理科系の人には嫌われます。人を動かすことを考えるなんて、政治家か詐欺師のやることで、理科系の人間が、そんなことを考えるのは汚らわしい――と、そこまで過激ではないにしても――大抵そうです。世の中で仕事をする時、人が動いてくれなければ、話にも何にもならないのは、理科系も文科系も同じことなのですが、何故か理科系の人は潔癖(?)です。

私自身もそうでした。 それがアメリカで、GE(General Electric社)のトップの研究者のS博士に、あることを教えて頂いて、変わりました。31歳の時の話です。

「“Tchnology”(技術)という言葉は使わないほうが良い」‥‥とS博士が言い始めたとき、何を言いたいのか分からなくて面くらいました。聴いている内に、段々分かってきました。「“Tchnology”という言葉は、包括的で曖昧すぎる。この言葉を使わないで

    Conceputual Skill (コンセプトを創る術)

    Technical Skill       (個別技術の業)

    Human Skill         (人を動かす術)

という3つの言葉を使い分けるのが良い‥‥」というのが、彼のアドバイスでした。初めの、コンセプチュアル・スキルという言葉は、分かりにくいですね。(総理大臣を含めて)日本人が一番苦手の、コンセプトを生み出す技です。外交を例に採ると、「安全・防衛をどういう方針・立場と戦略で実現するか?」というのがコンセプト。新商品を例にとると、「どういう機能・デザイン・コストの商品を、どういうメカニズムで、どういうユーザー・販路を対象に、いつ、どういう原理で実現するか?‥‥‥」といった処がコンセプトです。“理念”と“戦略”が一つになったものと言ってもよいでしょう。 2つ目のテクニカル・スキル というのは、分かりやすいですね. 携帯電話を例に採れば、電子回路は‥‥、液晶は‥‥、ボディーのプラスチック射出成型は‥‥みんなテクニカル・スキルです。日本語の“技術”と殆ど一致しています。3つ目の、ヒューマン・スキルは、組織の、あるいは社会の人を動かす術です。

 「うっかりすると、テクニカル・スキルだけに埋没しがちだが、この3つのスキルが、我々トップの研究者には、等分に必要で、これらを磨かねば‥‥」というのが、S博士の持論でした。 この話は、当時の私には新鮮でした。 「(真似ではない本当の)新しいモノを生み出して、それを世の中で通用させるには、テクニカル・スキルだけでは話にならないのか!」と合点がいきました。日本人は、元々、コンセプチュアル・スキルやヒューマン・スキルが苦手(日本の総理大臣を見るとよく分かりますね)のところに持ってきてテクニカル・スキルしか磨かないから、コンセプチュアル・スキルや、ヒューマン・スキルはますます苦手になる。 これまでは、コンセプトは外国が教えてくれて、ヒューマンスキルは社会システムがあって‥‥‥しかし、これからは‥‥‥‥。

 アメリカから帰ってきて、コンセプチュアル・スキルを磨くことに専念しました。テクニカル・スキルは、日本中得意な人だらけなのだから、外注でいいや‥‥‥ということにして――これは、

39歳で起業して、迷わずアウトソーシングを選んだ時の、基本の考え方に繋がりました。つまり、自らはコンセプチュアル・スキルに徹して、テクニカル・スキルはアウトソーシングに徹する‥‥‥という考え方です。 併せて、ヒューマン・スキルを磨くことも心がけてみました。テクニカル・スキルを磨くことは、以来、放棄しました。

 アメリカでは、経営者は、政治家と同じように、演説とユーモアのセンスを、(日本の経営者がカラオケの練習をするくらい)熱心に鍛錬するそうです。ヒューマン・スキルは奥が深そうですね。 さて、理科系のみなさん、「人を動かす話」はやっぱりお嫌いですか?