2000年6月17日 / 「人を動かす魔法の話」

 「人が動いてくれない。いいことなのに何故だ?」‥‥起業家の方から、よく質問されます。昨日も、若手起業家から悩みを打ち明けられました。人が動いてくれなければ、話にも何にもなりませんから、起業家にとっては――政治家や芸術家にとっても――なによりも重要な話です。そこで今回は、人を動かす“魔法”の話です。 

 (3年前の古い話ですが)若手起業家Nさんの訪問を受けました。「近視矯正ソフトの販売」という新事業で資金調達をしたい、アドバイスを‥‥‥というのが用件でした。コンピューターの画面を眺めていれば近視が治るというシロモノですが、米国のナントカ博士の理論に基づくホンモノのようです。事業計画書を渡され、説明を聴いて、“一通り”は分かりましたが、「よく分からない」とコメントしました。科学者としても起業家としても訓練を積んできた私が、好意的に真剣に聴いて、“一通り”しか分からないのでは、一般の投資家が聴いても“サッパリ”分からないと思ったからです。 “分からない”という意味を、「投資家の立場や気分になって聴いてみると、心が動かされない――つまり、投資する意欲が起きない」ということだ‥‥‥ということや、よっぽど心を動かされなければ、投資は得られないことを教えて差し上げて、その具体的な方法までアドバイスして差し上げたのですが、Nさんは怒って帰ってしまいました。 「ここにも無理解な人間がいた」ということなのでしょう(何しに来たのだ?)。 

 Nさんと同じような質問を数え切れないほど多く受けてきました。10年以上前(今日のベンチャー支援ブームとは程遠い時期)に30億円の資金調達(日本記録?)をしたことや、空気清浄機のマーケットを創って、200万台の販売(世界記録?)をしたことが、伝説として残っているからでしょうが、きっと“魔法”があるはずと見て、それを聞きにいらっしゃるようです。

大きな誤解が2つ有ることに気が付きました。1つ目の誤解は“魔法”が有ると思っていること(ナーンダ‥‥と言わないで先を読んで下さい)。2つ目の誤解は、「中身がよければ、人は動かせるはずだ」と信じていることです(だから、中身のよさを力説する)。「中身が悪ければ人は動かない‥‥」ということには異論は無いのですが、「中身がよければ、人は動く‥‥」というのは、どうも違うようです。

消費者や、販売代理店や、マスコミや,投資家‥‥‥全ての人が、、“ビク”とも動いて下さらない。起業家になりたての頃の私の経験です。それまでの人生では、人は動いてくださった経験ばかりでしたので、面くらいました。そこで気が付いたのですが、私の過去の世界では、大企業の重要なポストに就いていて、社会のメインストリームの仕事ばかり――つまりは、大きな機械の歯車として動いていて、「人を動かす」と言っても、「隣の歯車を動かす」ようなものですから、「基本的には動く」世界で生きてきたということだったのでしょう。起業家が世の中のマジョリティーを動かすということは、一転、「トコトン動いてくれない」世界だったのです。

「トコトン動いてくれない」世界で、人を動かすには、どうすれば良いでしょうか? 中身の良さを「理解」してもらうこと――「ワカッタ!」と言わせることですね。 Nさんも多くの起業家も、これで人は動いてくれると思った。「基本的には動く」世界の話なら、そうですね。「トコトン動かない」世界では、このレベルでは★(一つ星)。“ビク”とも動きません。「理解」の上は「納得」――「なーるほど!」と唸らせることです。ここまで行っても、★★。 指先も動きません。「納得」の上は「賛同」で★★★――「私も一緒にやりたい!」と興奮させることです。これでも人は動いてくれない。(大袈裟過ぎないか‥‥とブーイングが聴こえてきましたが)立場を逆にしてみればそうですよね。無名の新商品を、この程度では買いませんよね。見ず知らずの起業家にお金を出す時に、この程度では出しませんよね。

「賛同」の上は「感動」――「スゴイ!」と叫ばせることです。これで★★★★。動きそうにはなりますが、次の日には
停まってしまいます(感動なんて1日の命)。★★★★★は「(うず)く」――体を捩れさせることです。これで、人はやっと動きます。大袈裟な‥‥‥と言われそうですが、この辺が本当の処なのではないでしょうか?「トコトン動かない世界」では、人ってそう簡単には動いてくれないのです。

★ 「理解」――「ワカッタ!」と言わせる

★★ 「納得」――「ナルホド!」と唸らせる

★★★ 「賛同」――「ヤリタイ!」と興奮させる

       ★★★★ 「感動」――「スゴイ!」と叫ばせる

★★★★★ 「疼く」――「ウウウ」と身体を捩れさせる

 「人が動いてくれない。いいことなのに何故だ?」とお嘆きのアナタ、若しかして★で何故だ?

と思っていませんか? ★をあと4つ増やしましょう。では、どういう風にしたら★★★★★になるか―――長くなり過ぎたので、続きは次回に回します。