2000年4月22日 / 「“フェア・トレード”って知ってますか?」

 ブラジル訪問の目的の一つは、カルロスさんのジャカランダ農場訪問。もう一つ別な目的は、無農薬有機農産物のフェア・トレード国際会議への参加でした。 “フェア・トレード”という言葉、ご存知ですか? 「途上国の産物を先進国が輸入するとき、(買い叩いたり、買い占めたり‥‥ではなく)適正な価格でフェアに取引することで、途上国援助の一環‥‥‥」くらいにしか、私は理解していなかったのですが、今回の会議に参加して、“フェア・トレード”には、もっと深い意味があることを知りました。知りたての知識を披露します。

 「カルロスさんと無農薬有機コーヒー」の話を、前回のこの欄で紹介しました。農薬と化学肥料の多用は、生物の多様性を破壊し、農地をやせ衰えさせて、結局は持続可能な農業を困難にします。使用された農薬の何分の一かは、消費者の体内に取り込まれます。ミネラル不足など、栄養の不足もよく知られた話です。誰にとっても、ちっとも良くないことで、誰でも分かっていることなのですが、世界中が農薬と化学肥料に席巻されてしまいました。ブラジルで無農薬有機コーヒーの比率は、たったの0.1%、残りの99.9%は、農薬と化学肥料を多用して栽培されています。その方が、安いコストで生産できるからです(カルロスさんのジャカランダ農場で、総出で雑草刈に汗を流している姿を見て、除草剤の“効能”を実感しました)。見かけは同じコーヒーが、片方は安く、片方は高い。“市場原理”が働いて、安い方が買われる‥‥という簡単な理屈です。 

無農薬有機コーヒーは、消費者にとって高品質(安全で栄養価も高く味も良い)ですから、少々高くても売れる‥‥という面はあるかも知れませんが、品質の差に“市場”がつけてくれる価格差が、コストの差をカバーしてくれるかどうかは保証の限りではありません(日本やアメリカでは、オーガニックがブームです。“売れる”と見た大商社が、オーガニックを買い漁りますから、“瞬間風速”では採算が合うでしょうが、“売れない”と見たら、すぐに手をひくでしょうから、これは大変に危険な“賭け”になります)。 ましてや、農業の“持続可能性”に“市場”が価格差をつけてくれることは望めません。 農業は、“イチかバチか”ではできませんから、結局、“市場原理”の世界では、無農薬有機農産物は実現が困難です。

無農薬有機農産物を実現する方策は、いろいろ考えられます。例えば農薬と化学肥料の使用を法律で規制(現状では非現実的)。例えば公的助成(やや現実的)。そして、最も現実的なアイディアである“フェア・トレード”です。 安全を含む“高品質”と、生産の“持続性”を願う消費者と生産者とが、直結し、適正な価格(農業の“持続”を可能にする価格)と継続的購入を約束します。現実的には、生産者と消費者の間に“仲介者”が介在する場合が多いでしょうが、“仲介者”は、生産の持続性と消費者の安全性を最上位において、生産・流通の“透明性”を守ります。“商社”が、金儲けを最上位に置いて、わけの分からない物を安く(時には高く)売るのとは、好対照です。

“フェア・トレード”の好例を、カルロスさんと中村隆市さんの関係に見出すことができます。中村さんが経営する潟Eィンド・ファームは、カルロスさんのジャカランダ農場から、適切な価格で、一定量を継続的に輸入します(ジャカランダ農場のコーヒーの約8割を中村さんが輸入しています)。決して買い叩いたり、他の農場に浮気したりしません。カルロスさんも、大商社の高値のオファーに浮気したりしません。中村さんを通してコーヒーを購入する日本の消費者のほとんどは、カルロスさんの“安全で高品質”なコーヒーのファンであると同時に、カルロスさんファンでもありますから、他のコーヒーに浮気しません(私も浮気しない一人です)。中村さんは、ジャカランダ農場での出来事などを頻繁に消費者にレポートしたりして、生産者と消費者の“ぬくもり”のある関係を維持しようと、いつも心を配っています。ブラジルで大きな評価を得ているカルロスさんの偉業は、実は、中村さんと日本の消費者に支えられたものでした。

途上国の援助の一環‥‥ではありませんでした。“フェア・トレード”は、持続可能な農業を可能にする現実的なアイディアでした。安全な農産物を確保する現実的なアイディアでもありました。そして、生産者と消費者とが手を携えていく“ぬくもり”のあるアイディアでもありました(ウン、ブラジルに来た甲斐が有ったぞ!)。