2000年4月8日 / 「クモの楽園」
クワッと照りつける太陽と、むせ返るような緑、アコーディオンの伴奏付きで全従業員に温かく迎えられました。カルロスさんのジャカランダ農園―――サンパウロから車で4時間、ミナス州のマシャード市近郊にある無農薬有機栽培のコーヒー農場です。 カルロス・フェルナンデス・フランコさん、73歳。 慈愛と風格に満ちた、素敵なお年よりです(こういう風に年を重ねたい!)。
農場を案内していただきました。驚かされたのは、クモの多さです。メチャクチャな巣が10セットくらい入り乱れていて、そこに20匹くらいのクモがウジャウジャ。木の枝で払うと攻撃的に飛びかかろうとします。整然とした巣を張って、孤独に、つつましやかに暮す日本のクモとは好対照――まるで、リオのカーニバルと歌舞伎の違いです。
巣がメチャクチャなのは、メチャクチャでも引っかかるくらいに虫が多いということなのか、
それとも他の生物に壊されてしまうので整然と張る暇がないのでしょうか? 攻撃的なのは生存競争が激しいからでしょうか? ウジャウジャと多いのは、餌になる虫が多いからでしょうが、虫が多いということは、小鳥も多いということで、小鳥が多いということは‥‥‥‥つまり、多様な生物が闘いながら共生しているということなのでしょう。
「農薬を使わないのは、このクモを守るためです」‥‥とカルロスさんはおっしゃいます。「持続可能な農業無しには、人類を含めた生物の未来は無いこと」、「持続可能な農業は、“生物の多様性”の維持でしかなし得ないこと」、そして「生物の多様性の維持は、農薬と化学肥料に依存した農業では実現できないこと」‥‥‥を、「クモを守るため‥‥」と表現したのでしょう。有機無農薬のコーヒー栽培をブラジルの地に根付かすために、何十年も苦労してきたカルロスさんにして初めて言える「クモを守るため」なのでしょう。
“生物の多様性”は(クモ以外にも)至る処で感じ取れます。 コーヒーの木のそばには、豆の木やバナナ、その他の植物が混在しています。一見邪魔そうな大木も切らないで残されています(農場の名の由来の、ジャカランダという名の木も植わっています)。 例えば豆の木は、空気中の窒素を取り込んで土中に固定化する‥‥‥といったように、それぞれの植物が役割を発揮して、化学肥料を不要にしています。
地面から30センチくらい下の土も、握り締めると半分の大きさになるくらいにフワフワ―――この柔らかさは感動的です。土中の微生物が豊富な証拠です。表層の腐葉土の養分は雨と一緒に土中に沁みこみ、その養分を微生物が分解して‥‥‥目には見えない微生物が、“生物の多様性”あるいは“共生”の、(例によって)決め手です。
(微生物が一杯の)柔らかい土の感触を楽しみながら、カルロスさんのジャカランダ農場が、いつまでも“クモの楽園”であり続けてほしいと、祈りたい気持ちになりました。