2000年3月25日 / 「直径15センチの地球」
目に見えない微生物を、目に見えるように感じ取るには、自分で酵母を培養してパンかビールでも造ってみたら‥‥‥と、前回のこの欄でお話しました。もっと素晴らしい方法があることを
思いだしました。 エコ・スフィアです。 エコ・スフィアは、地球環境を考えるための教材として、アメリカのスペースエイジという会社が開発しました。感動モノでしたので、日本での販売を私がお手伝いしました。数年前の話です。
直径15センチ程度のガラス球の中に、水と空気と藻、それと、1センチ足らずの(生きた)エビが5〜6匹ほど閉じ込められています。ガラス球は完全に密封されていますから、水や空気を替えたり、餌を与えたりはできません。それなのに、水は澄んだままで、エビは生き続けます。時には子供が生まれたりもします。 誰もが「エッ!」と驚きますが、マジックではありません。 但し、一つだけ条件があります。室内光でもかまわないから、光が必要なのです。
もうお分かりかもしれませんが、秘密は(目に見えない)微生物。 エビと藻と微生物とが、ガラス球の中で、完全な生態系をつくっているのです。エビの糞は微生物に分解されて藻の栄養となり、その藻をエビが食べる。適度の光とエビの吐いた二酸化炭素によって、藻の中で炭酸同化作用が行われて、酸素が作られ、それをエビが吸う‥‥‥という共生関係が成立しています。
種明かしされると、「ナーンダ!」という簡単な話ですが、これを人工的に実現するのは、想像以上に難しい技術です。宇宙での生活を想定した、人工的な密閉生態系の研究に長年携わった、NASAの研究者たちが、スペースエイジという会社を創った‥‥と聞くと「ナルホド!」と納得がいきます。
私の(当時小学生の)子供たちも、家に友達を連れてきては、エコ・スフィアを見せ、共生のメカニズムを得意そうに語っていました。エビが泳ぐ姿が可愛いからか、子供たちは何十分も、飽かずに眺め続けながら、「地球環境を大切にしなくっちゃね‥‥」などと言ったりしていました。まさに“生きた”教材です。
ある日突然、6匹だったエビが7匹になっていました。狐につままれたような気分になって、大騒ぎする私に対して、(息子)「父さん、エビが脱皮したんだよ。1つは抜け殻だよ」。(私)「えっ、エビって脱皮するのか?」。(息子)「そんなこと知らなかったの?」‥‥と、子供に初めてモノを教えられた楽しい思い出です。その後、エビの子供も2匹生まれ、それはそれは可愛いものでした。
この、エコ・スフィアは2年ほどで、製造・販売を止めるという、残念な結末となりました。(生態バランスが崩れ)藻が繁殖しすぎ、水が濁って、半年足らずでエビが死滅するという事件が続発し、それを技術的に解決できなかったからです。しょっちゅう眺めているので、感情移入してしまうせいか、エビが死んだときのショックが大きいのです。
残念な結末にはなりましたが、素晴らしい“生きた教材”という感想は今も変わりません。“生きた教材”が大変に効果的という強い印象も残っています。エコ・スフィアはちょっとデリケート過ぎたのでしょうね。 この“生きた教材”を“活かし続ける”発明を、どなたかチャレンジしてみませんか!