2000年3月18日 / 「酵母‥‥‥造れます!」
ビール、ワイン、パン、チーズ、味噌、納豆‥‥発酵食品はほとんど自家製‥‥という話を前回のこの欄で披瀝しました。発酵食品は酵母が命。いい酵母は簡単に見つけられる‥‥と書きましたが、あとから読み返してみて、“簡単”は、ちょっと嘘っぽかったなと思いました。そこで、今回は“本当に簡単”に酵母を探せる方法を紹介します。
酵母は菌の一種です。菌は、乳酸菌や大腸菌のような“細菌”(=バクテリア)と、青カビのような“真菌”、インフルエンザのような“ウィールス”に分けられますが、酵母はその中の“真菌”の一種、つまりカビの仲間です。真菌は知られているだけで2万種類もあって、黒カビのように悪さをするものもあれば、役に立つ酵母もあります。真菌は土の中や果物、花、穀物など、至る処に存在します。真菌も細菌も、種類によって、好きな温度・湿度・栄養が異なりますが、3つの条件を整えると、1個の菌が1日で千個、時には1万個にも増えます(私は物理を勉強してきたので、菌の増殖の話は耳で聞いていただけだったのですが、16年前に自ら細菌の培養実験をしてみて、2日間で100万倍になるのを実際に目で見た時の戦慄を忘れられません)。
原理的には土や果物、花、穀物などを採ってきて、栄養分と一緒に水に漬けて(果物や穀物は自ら栄養を持っているので水に漬けるだけでもよい)、温度を適度に高めてやれば(大雑把には30度くらいに)酵母はどんどん増殖する‥‥‥というわけですが、それでは悪玉の菌も一緒に増殖してしまいます。そこで、悪玉の増殖を抑えて、好ましい酵母だけを増殖させることが必要になります。上手い具合に、酵母は酸や強い糖やタンニン、カテキンに強く、やや低温(20度から25度くらい)を好み、逆に、悪玉の菌の多くは酸に弱く、やや高温(35度前後)を好みますから、この性質を利用して、酵母だけを増殖させることができます。
例えば、瓶に濃い紅茶とレモン汁(紅茶250ccにレモン1個くらい)と蜂蜜(大さじ2杯くらい)を入れ、加熱殺菌後、十分に冷めてから、(例えば)干しブドウを適量(100グラム程度)沈めて蓋をする。あとは、温度を20度から25度くらいに保っておけば、1週間くらいで発酵と増殖が起き始めて、2〜3日で発酵完了。沈殿物を取り出せば出来上がりというわけです。発酵・増殖中は、勢いよく気泡が吹き上がり、シャーという音が聴こえて、感動ものです。
気泡が吹き上がって、芳香が漂ったらほぼ成功です。成功の確率は私の場合、50%くらいでしょうか。ですから、5瓶くらい同時進行させて、上手くいったものだけを残すことにすれば、必ず上手くいく‥‥というわけです。どうですか、“本当に簡単”でしょう!
こういうことをやっていると、目に見えない微生物が、目に見えるように感じられます。よく知られているように、自然の環境を保つ上でも、人間の健康を維持する上でも、酵母のような“微生物”の働きは不可欠なのですが、目に見えないために存在が忘れ去られ、化学物質によって消し去られつつあります(日本の河川や農地と子供の腸内の微生物の数は10年ごとに半減しているそうです)。どうしたら目に見えないものを目に見えるように、人々が感じられるようになるのだろうか?‥‥ということは、環境問題の討議の場でよくでる課題ですが。自分で探した酵母でパンを作ったり‥‥‥なんていう当たりが、良い答えなのかも知れませんね。