2000年1月22日 / 「名演奏家を育てるアップル理論」

 前回のこの欄では、長唄の深奥を外国人から教えられた(ちょっと癪な)話を披露しました。今回は、西洋音楽の教育法を西洋人に、日本人の私が教えて差し上げた(ちょっと得意な)話です。

 私の妻は、本職のピアノ弾きで、生徒を育てることに生き甲斐を感じているようです。とりわけ、幼児の才能を開花させることに情熱を持っています(エライ!)。テクニックなら、キチンと訓練すれば達者になっていくのですが、音楽性(つまり、聴く人の心を動かすような)の方が身に着かない。機械のように正確だけど音楽性は低い‥‥そんな演奏でしたら、コンピューターに任せておけばよいでしょうから、何とかして音楽性を高めて上げたい。「ココはコウ弾くのよ!」式に教えれば、「ソコはソウ」音楽性高く弾けるのですが、「アソコはアア」でしかない。こういうレッスンを繰り返していく内に、「パターン認識」していってソコソコ音楽性の高い演奏家には育つのですが、どうもニセモノくさい‥‥‥これが、妻の長年の解けない課題でした。

 そこで、年季だけは40年の道楽演奏家の夫(私のこと)登場。二人で「何故?」を研究してみました。「音楽というのは、言葉()が先にあって、それにメロディーを付ける‥‥」という、簡単なことを、先ず思いだしました。メロディーが先にあって、詩を後からつける‥‥なんてことは、めったに有りません。そして(途中省略)「西洋音楽のリズムやフレーズ(メロディーの一節)は、西洋の言葉のリズムやフレーズと同じなのだ」ということに思い至りました。例えば、8分音符が一つに、16分音符が2つの  というリズム。こういうリズムは西洋の言葉にはたくさん有ります。applelocal, total, barbell, journal‥‥‥いくらでも出てきそうです。日本語には有りません。「これか!」――鉱脈を掘り当てたように(掘り当てたことなんかないけど)興奮しました。

4分音符を一拍とすると、8分音符は1/2拍、16部音符は1/4拍。だから、のリズムは、1拍を4つに分けて、2:1:1の長さ――■□■■(タン・タ・タ)‥‥‥。私たちが小学校の音楽の時間に習ったのは、こういうことでした(今の小学校でも、こういうことです)。 付点8分音符1つに16分音符が一つの  のリズムの場合はというと、3:1の長さ――■□□■(タアン・タ)‥‥というわけです。出発点での、この教育は強烈です。頭に刷り込まれてしまいます。□ がでてくると、頭のどこかで2:1:1、タン・タ・タ、タン・タ・タと数えているのです。同じ □ でも、時には2.20.90.9 だったり、別な場面では1.8:1:1.2だったり、その上、1拍目が強かったり、時には3拍目が強かったり‥‥‥音楽性の高い演奏というのは、そういうことなのでしょうが、「2:1:1」が邪魔をして、コンピューターみたいな演奏家を育ててしまう‥‥‥。

私たちのアイディアはこうです。子供がなるべく小さい内に(できれば、算数を習う前に)「洋子ちゃん、リンゴは英語で何ていうの?」。「アップル!」。「洋子ちゃん、  は“アップル”のリズムだよ」。 「帽子は英語で何ていうのかな?」。「ハット!」。「じゃ、 ☆ は“ハット”のリズムだよ」‥‥‥といった調子です。次に、嬉しいアップル、悲しいアップル、楽しいアップル‥‥いろんなアップルを、ピアノで(子供に考えさせて)弾かせてみる。こういうことを繰り返して、子供たちに、たったの  の中に、たくさんの音楽を持った――2:1:1を(機械的に)正確に弾くことよりも、ずっと大切な、“感性”を身につけさせるのです。“アップル”だけでは、子供の音楽性を高められませんが、“アップル”に気が付いた後は、課題の解答は次々にでてきました。例えば、大変にシンプルなメロディー(その子には楽々弾ける簡単なの)を与えて、そのメロディーを悲しく、楽しく、嬉しく‥‥赤だったり、黄色だったり、猫だったり、トラだったり‥‥‥いろいろに弾いてみさせる――これも、解答(名付けて「アップル理論」)の一部です。悲しさに溢れたメロディーを単調に弾いてしまう(2:1:1のせいで)のを直す教育ではなく、単調なメロディーを感情豊かに弾く教育‥‥というわけです。

 “アップル理論”は、実際にやってみて、とても上手くいっています。日本では、ちょっと自慢してもいいかな、でも、(西洋音楽の本場の)西洋では、「当たり前だよ」と言われる‥‥‥と、思っていました。驚きました。ドイツでもやっているのです―――2:1:1を。そこで、機会あるごとに、西洋人に教えてあげているのです、西洋音楽の練習方法を(これで、長唄とオアイコ!)。

[練習問題] ● のリズムの英単語を探して下さい。

(3:1:2 なんていう算数の問題ではありませんよ。この答を教えてあげるとプロの演奏家からも感謝されます)。