『住宅事情が生んだシックハウス症候群』
今日では誰もが耳にしたことがあるだろう「シックハウス症候群」という言葉。この語源は米国のシックビルディング・シンドローム――1976年の造語で、空調装置などが菌に汚染されたビルで多くの人が発病する現象をさしていました。
日本ではシックハウス症候群という言葉にアレンジされて、住宅の壁や天井の合板からホルムアルデヒド等の有害物質が発散されて頭痛や吐き気などの症状を引き起こす現象を指すようになりました。1980年ごろから一部で問題視されていましたが、社会問題として大きく取り上げられるようになったのは1994年ごろからのことです。
シックハウス症候群の原
因
は2つあります。一つは有害物質を発散する建材がまかり通っていること。もう一つは住宅が高気密過ぎることです。高気密すぎるので、連続的に発散する有害物質の濃度が高くなってしまいます。
ならば、有害物質を発散する建材を法律で禁止してしまえばよいだけのような気がするのですが、現実の法律では「すべての建築物に機械換気設備の設置を義務付ける」(改正建築基準法)という不可思議な話になって、2003年7月1日から施行になってしまいました。人間が行う換気(窓の開け閉めとか)では駄目で、計画的に(つまり自動的に)行われる換気でなくてはなりません。「電気でなくてはいけない」とは書いてありませんが、現実的には電気でなくては不可能です。換気装置のための電力使用量が、この法律によって、はね上がりそうです。本当に不思議な話です(恥ずかしくて外国人には話せない!)。
『空気を新陳代謝させることは人類の知恵』
ホルムアルデヒドの有無に関わらず、人間が生活する以上は外部との空気の行き来は不可欠のはずです。ですから極寒地ですら中程度の気密性にして、空気の新陳代謝を常に行ってきたのが人類の知恵だっただったと言えるでしょう。
ならば、高気密を中気密に戻してみてはいかがでしょうか。中気密にした場合、日本では湿気が問題になります。雨が降っている時に外部の空気を取り込むのは気が利いていません。
そこで、湿度が高い時には自動的に閉じて、湿度が低い時には自動的に開く非電化換気装置をご紹介しましょう。15年前に発明したものですが、この発明には、実はお手本がありました。奈良の正倉院です。歴史の教科書にも出てくるように、正倉院の校倉造りは絶妙です。断面が三角形の木の柱を並べて壁面を構成します。木は湿度が高いと膨張しますから、柱同士がくっついて、壁は気密になります。湿度が低いと木は乾燥して縮み、柱と柱の間に隙間ができて、乾燥空気が室内に入ってきます。これだけのしかけで、聖武天皇の御物を千年以上にわたって腐食や虫喰いから守ってきたのですから、半端な技術ではありません。
ただし、校倉造りは壁面全体を三角の柱で構成してありますが、一般の住居にそのまま採用するわけには行きません。
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