太 陽 熱 温 水 器

太陽でわかした 風呂が 好きだ

からだも こころも あたたまる
       

太陽熱温水器が大量に捨てられている

最近、太陽熱温水器が大量に捨てられていると聞いて耳を疑いました。壊れて使えないものではなく、まだ十分に使えるものを撤去費用と処理費用(合計数万円)まで払って捨てるのだそうです。捨てる理由は「かっこ悪い」から。太陽電池や風力発電機はかっこよくて、太陽熱温水器は「かっこ悪い」のだそうです。統計データーを調べてみると、’99年に11.5%だった世帯普及率は’04年には7.3%と確かに下がっているのです(総務省総計局調査による)。

 「我慢して環境保護」という、かっての「辛いエコロジー」とは異なり、最近の風潮は「愉しいエコライフ」「おしゃれなエコロジー」。この風潮自体は吾が意を得たりと大歓迎なのですが、十分に使える太陽熱温水器が産業廃棄物として捨て去られるのには訝しさを覚えます。太陽熱温水器で風呂を沸かすというのはシンプルで理に適った方法です。太陽熱温水器の普及率は日本が世界一。年間を通じて日照時間が長く風呂好きの日本人にはもってこいのエコロジー‥‥と誇りに思ってきたのですが、この調子では世界一の座を北欧やドイツに奪われそうです。 みに太陽熱温水器の世帯普及率日本一は宮崎県。’99’年の普及率はなんと44.1%――2軒に1軒弱という素晴らしい普及率でした。せめて宮崎県くらいは‥‥と調べてみると、’04年には29.4%(残念!)。低落傾向は全国一律でした。

 風呂の湯を沸かすためのエネルギーは膨大です。追い炊きまで含めると、一世帯当たり一日に凡そ6千〜1万キロカロリー(約712KW時)を要します。しかし、たかが4243℃の温度にするだけですから、量は多くても質はきわめて低いエネルギーです。ゴミでも薪でも、もちろん太陽熱でも沸きます。高質のエネルギーである電気で沸かすのは論外‥‥と、エコロジー派は怒り心頭なのですが、現在流行(?)しているのは正にこれです。夜間電力は余り気味なので、夜に沸かす風呂にはピッタシ‥‥という理屈もあるようです。太陽電池で発電した電力なら自然のエネルギーだから‥‥という話もよく耳にします。ちょっとこわい話ですね。

太陽熱温水器がかっこう悪い理由

一部の豪雪地帯を除くと日本の屋根の勾配は緩やかです。勾配は雨水を流すためですが、勾配が緩やかなほど建築は楽ですから、雨を流す最低限度の勾配に押さえるのが普通です。したがって水が流れやすい屋根材料ほど勾配を緩やかにとります。屋根の勾配を表現する時は現在でも「○○寸勾配」という言い方をします。例えば3寸勾配というのは底辺10寸に対して高さが3寸の傾きのことです。昔の茅葺屋根では8寸勾配(角度にすると約39度)以上でしたが、瓦屋根では4寸(約22度)、鉄板やステンレスの屋根の場合は3寸程度(約17度)とするのが普通です。つまり、現代の建築になるほど屋根の勾配は低くなってきたわけです。

 この低い勾配が太陽熱温水器の「かっこ悪さ」に繋がります。太陽熱温水器が屋根から突き出してしまうからです。例えば3寸勾配の場合、屋根に沿って集熱パネルを設置すると、真夏には丁度よい勾配になりますが、秋冬春には勾配が緩やか過ぎてお湯が沸きません。年間を通して集熱効率を高めようとすると、その土地の緯度くらいの傾きにせざるを得ません。結局、鹿児島なら26度、札幌なら43度くらいに傾けることになります。つまり、北の地域ほど太陽熱パネルの勾配は大きくなり、その分だけ屋根から突き出て「かっこ悪い」ことになります。北に行くほど太陽熱温水器の普及率が低いのは、日射量が少ないことに加えて、かっこ悪さも原 なのかもしれません。

自然循環型がシンプルでいい

太陽熱温水器には「自然循環型」と「強制循環型」の2種類があります。自然循環型というのは集熱パネルの上部に貯湯タンクが付いている方式。自然対流の原理を使って貯湯タンクに熱い湯を蓄えますから、電力は不要。シンプルの極みですから、価格も工事費込みで3050万円。シンプルだから壊れにくく、15年くらいはもちそうです。陽光のエネルギーは1u当たり約1KWで、この内の6〜7割くらいを利用できますから、3uくらいの標準の太陽熱温水器で(日照の程度によりますが)一般の家庭で風呂を沸かすエネルギーの凡そ6割くらいは賄えます。強制循環式というのは、屋根の上の集熱パネルと地面に置いた貯湯タンクの間を電動ポンプを使って水を強制的に循環させる方式です。自然循環式に較べると複雑なシステムですから、価格は一般家庭用でも100万円以上と高額ですが、風呂だけではなく暖房にも使えるので、学校や福祉施設などの業務用によく使われます。

個人的には自然循環型の太陽熱温水器がシンプルで私は大好きです。熱力学的に考えても最も合理的なエコロジー製品と思っています。この合理性を考えると、「かっこ悪い」と感じるよりも、むしろ「愛らしい」と感じてしまうのは私一人だけでしょうか?

 1973年の第2次石油ショックを契機に太陽熱温水器はブームとなりましたが、粗悪品が多く、当初は大きな満足を得ることはできませんでした。1980年代なって、太陽熱温水器には様々な改良が加えられ、効率と耐久性は見違えるほどに高くなり、完成の極みと言ってもよいレベルに達しました。集熱パネルに選択吸収膜を使ったり、真空ガラス管を使って断熱性能を極限まで高めるなどの工夫が、効率を高めるための主な改良点です。ただし、これらの改良によって効率は高くなりましたが、価格も高くなってしまいました。太陽熱温水器の普及率の低落のもう一つの原 は、価格の問題です。


然循環型の太陽熱温水器
     

制循環型の太陽熱温水器

DIYで作れる、安価な太陽熱温水器

そこで、思い切り安価な太陽熱温水器を一つ紹介します。自分で考えて自宅で使っているシステムです。このシステムでは、ゴム製のチューブが並んだシートを集熱板に使います。ただの黒いゴムですから、選択吸収膜とか真空ガラス管とは異なり、効率は著しく低いのですが、それを補って余りある安さです。効率が低い分、面積を大きくします。風呂用としては約5uの面積を使います(それでも驚くほどの安さです)。浴槽の下部にも同じゴム製のシートを熱交換器として敷きます。集熱用のシートと浴槽下部のシートを細いパイプ(内径8mm)で循環するように繋ぎます。パイプの途中に太陽電池で駆動される水ポンプを設置します。ゴム製の集熱パネルは軽くて柔らかですから、合板の上に敷いて固定し、陽当たりの良い場所に適当に設置します。効率の悪さは初めから承知の上ですから、角度などはあまり神経質に考える必要はありませんが、凝り性の方は、季節によって角度を変えられるようにしてみてはいかがでしょうか。

 この太陽熱温水器は、自分で作るところに意味があります。2階の屋根の上に設置‥‥というような難しいことを考えると専門業者に設置工事を委ねなくてはなりませんから、2階のベランダの手すりのように、日曜大工で取り付けができるところを選びます。ゴムシートは幅20cmが単位ですから、簡単に取り付けられて日当たりの良い場所を自由に選ぶことができます。日当たりのよい場所は探せば案外見つかるものです。1箇所では面積を稼げない場合には、分割して直列に繋ぎます。私の自宅の場合は2階の窓の手すりに吊り下げるような形で1階の屋根の上に設置しました。幅は60cm、長さは約8mという、細長い太陽熱温水器です。

 この太陽熱温水器は、自然循環型の場合の(一体型)貯湯タンクも、強制循環型の場合の(地上置き)貯湯タンクもありません。タンクの替わりに浴槽そのものを使います。浴槽に水を張り、上面に断熱用の発泡スチロールを浮かべておきます。太陽が照るとゴム製集熱板が温まり、チューブ内の水も温まります。太陽電池で駆動されるポンプが水を循環し、浴槽下部のゴム製熱交換器を介して浴槽内の水を温めます。

 日曜大工ですから、掛かった費用は材料費の10万円弱のみです。この程度の簡単なものでも風呂用のエネルギーの50%以上を年間平均で賄うことができます。かっこ悪くない場所を選びますから、意外にスマートです。壊れたら自分で直します。自分で直せるところが日曜大工のよさでもあります。安価でかっこ悪くない太陽熱温水器の出来上がりです。

使える太陽熱温水器が捨てられ、普及率が年毎に下がってゆく。もっと省エネルギーで安価なものに取って代わられるのでしたら「以って瞑すべし」なのでしょうが、逆なものに取って代わられる風潮に訝しさを感じる‥‥と前に述べました。かっこ悪いことと(その割には)高価なことが普及率低落の理由とも述べました。然らば、かっこ悪くなくて安価な太陽熱温水器を作ってみてはいかがでしょう。上述の太陽熱温水器はその一例です。それほど難しくはありません。環境問題への深刻さが募る今こそ、エコロジー優等生の太陽熱温水器を見直したいものです。


格安型太陽熱温水器の構造


格安型太陽熱温水器の設置例(非電化工房製)

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