除湿機は本当に必要か?

「隠れんぼ」は私たちが子供のころの代表的な遊びでした。絶好の隠れ場所の一つは床下――それくらいに床下は高かったのですが、高くしたのは隠れんぼのためではなく、湿気をこもらせないためです。大掃除の時に畳を上げると、板の隙間から床下が見えました。材木代を節約したのではなく、隙間からの空気が畳を通り抜けるようにして、畳に湿気がたまるのを防いだのです。土壁や障子や木の天井は、室内の湿度が高いと湿気を吸い、乾燥すると湿気を吐き出します。日本は湿度の高い国ですから、伝統的な日本建築は湿度との調和を図る工夫が随所に施されていました。ですから、家の中がカビだらけ、ダニだらけという家は滅多にありませんでした。子供がアレルギーという家も滅多にありませんでした。

1964年東京オリンピック以後の高度経済成長と共に、日本の建築様式は一変ます。湿気を吸わない新建材で囲まれた、高気密・高断熱の家がもてはやされます。湿気のための伝統的な工夫はあっさりと捨て去られました。カビだらけ・ダニだらけでない家は滅多になくなりました。 余談ですが、近代的な家の畳と、伝統的な日本建築の家の畳に住み着くダニの数を比較調査して驚いた経験があります。

そこで除湿剤と除湿機の登場。1970年台後半から、プレハブ住宅の伸びと正比例するように除湿剤と除湿機は急速に普及してゆきます。除湿剤も除湿機も便利ですが、除湿剤は塩化カルシウムなどの化学物質を大量に使い捨てにするのが、ちょっと気になります。除湿機は大量の電力を消費するのが気になります。家庭用電力消費に占める除湿機用電力の割合は1.4%で、用途別では9番目ですから、無視できる量ではありません。実は除湿剤も製造過程では電力を大量に消費していますから、除湿剤の使い捨ては電力の使い捨てとも言えそうです(計算してみると、同じ除湿量なら電気除湿機よりも電力を消耗します)。

そこで非電化除湿機を考えてみました。化学物質を使い捨てにせず、半永久的に使える、電気を使わない除湿機です。図左が完成した非電化除湿機です。幅60cm、高さ60cm、厚さは5cmのつい立てのような形状です。10本のエレメントが並んでいます。各エレメントは図右のように、ぶ厚いろ紙を、孔のあいたホルダーで覆ってあります。ろ紙には塩化カルシウムを含浸させてあります。ホルダーは太陽光を吸収しやすいように加工してあります。10本のエレメントの形状と配列を(流体力学的に)工夫して、室内の湿気をほどほどの速さで吸収できるようにしました。

これだけのことですが、2日かけて1〜1.5リットルくらいは湿気を吸い取りますから10畳くらいの部屋でしたら使用に耐えます(伝統的な日本建築の吸湿力と較べると、40畳分くらいの能力に相当します)。強力な電気除湿機(1日数リットル吸い取る)に較べるとスローですが、数百円で売っている使い捨て除湿剤に較べると数十倍速そうです。全体の色は鮮やかなブルーですが、湿気を吸い取るとピンク色に変わります。全体がピンクになるとこれ以上は湿気を吸うことはできませんから、陽光に曝して再生していただきます(ここが面倒くさい)。元のブルーに戻れば再生完了――除湿を再開できます。陽光が強ければ2〜3時間、弱い時は5〜6時間で再生できますが、再生したいのに太陽が顔を出していない時は諦めていただきます(エッ!)。

この除湿機を限定的に販売してみました。評価は半々。エコロジー派の人からは「少々面倒だけど、電気が要らない、何も捨てない、半永久的に使えるからいい!」と好評でしたが、一般の人からは「面倒くさい!」「遅 すぎる!」「ナンダ!」「カンダ!」と不評でした。

『愉しい非電化』(洋泉社)より抜粋

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