針が回る時計はいい。 時間が ずっと つながる
きのうは きょうに つながり、 きょうは あしたに つながる 

   
機械式時計
    

 古時計の魅力

 
『大きな古時計』という古い童謡を、2002年秋に歌手の平井堅さんがカバーして大ヒットさせました。この歌のヒットがきっかけとなって、本当の古時計も小さな流行になって、骨董時計の相場が1割ほど上がりました(すぐ元に戻ったけど)。この曲では、おじいさんの時計は百年動いて止まるのですが、私が持っている『小さな古時計』(図28。1800年頃の英国???製)は200年経っても動き続けています。桜の木の皮が貼られた本体は新品のような艶を維持していますし、デザインも品が良くて素敵です。あと200年くらいは保ちそうな感じです。修理しやすくできています(修理できるから長持ち――ここが電気式時計と違う!)。この時計を見るたびに「200年か!」と感心しています。 

 気に入っている時計がもう一つあります。こちらは150年くらい前のドイツ製の重錘式時計です(図29)。2つの錘の右側は長短針用、左側は時報用です。鎖を引き下げると錘が吊り上げられ、錘の重力エネルギーで時計は動き続けます。1回吊り上げると8日間動き続けます。私たちが子供のころによく見かけた鳩時計(図30)もこの方式でしたが、錘が軽かったので、1〜2日に1回は鎖を引き下げなくてはなりませんでした。ドイツ??製が8日間も動き続けるのは錘が1個3kgという、半端でない重さだからです。3kgの重さが歯車にかかり続けるわけですから、いい加減なメカでは1年も保たないでしょう。それが150年動き続けているわけですから、もう脱帽です。ゼンマイ式ですと、巻き忘れるとある時突然止まってしまうのですが、重錘式は、錘が徐々に下がりますから、あとどれくらいで停止か、見てわかります。家の誰かが気がついて吊り上げます。下から吊り上げるので子供でもできます。時報もチンという慎ましやかな音です。なんか、いい時計です。
       


(a)200年前の英国製の時計 
(所蔵&撮影 by Fujimura)

(b)150年前の英国製の時計 
(所蔵&撮影 by Fujimura)
     
(c)50年前の日本製の鳩時計 
(所蔵&撮影 by Fujimura)

   
温度差をエネルギーにして動き続ける時計

 ゼンマイを巻かないでも、錘を吊り上げないでも、永久に動き続ける時計があります。スイスの高級時計メーカー、ジャガー・ルクルト社が1928年に発表したアトモスという有名な温度差時計です(図31)。この時計は周囲の温度差をエネルギーにして動き続けます。300c㎥ほどの金属のドラムには空気が閉じ込められています。周囲の温度が変化すると空気の温度も変化して膨張・収縮します。特殊なベローズ(蛇腹)でこの膨張・収縮を直線運動に変え、それを回転運動に変えてゼンマイを巻きます。1日に1℃の温度差があれば2日間は動き続けるというスグレモノです。「精密技術の極み」と言ってもよさそうな精巧な作りです。一番安いモデルでも40万円以上、一番高いモデルは2,000万円というから、値段も半端ではありません。「1日に1℃の温度差で2日」というのは、俄かには信じがたいことですから、アトモスを手に入れて確かめてみました。本当でした。


ジャガー・ルクルト製のATOMOS
(所蔵&撮影 by Fujimura)

     
時計のねじまき屋さんが教えてくれること

 時計のねじ巻き屋さんが新潟県加茂市にいらっしゃるのだそうです。2003年2月10日の朝日新聞(夕刊)「信頼のねじ巻き屋」という記事で紹介された中林信治さん(84)です。加茂市は桐ダンスの生産で知られる人口3万3千人の町。記事によれば、中林さんの店は105年ほど前にお父さんが加茂市で創業した時計屋さん。お得意さんの時計の出張ねじ巻きを、終戦の翌年からずっと続けているのだそうです。得意先は多いときは600軒ほどありましたが、最近は高齢のために100軒くらいに絞っているそうです。仕事は週に3,4日。古い時計は8日巻きが多いので、照ろうが降ろうが8日以内に(脚立を担いで)行きます。58年の間に休んだのは洪水の時と自動車事故にあった時の1週間だけだそうです。ねじ巻きのついでに時刻合わせや調整までします。料金は半年で2千円程度。中林さんが引退すれば、古時計はたちまち使われなくなるかもしれない。街のひとは、少しでも長く仕事を続けてもらいたいと願っているそうです。こういう街があるのですね。いい街だな、いい話だな‥‥と、この記事を見て思いました。

    
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